日経平均が7万円回復をうかがう強気ムードの裏で、為替市場はまったく別の緊張感に包まれている。ドル円は再び1ドル=160円という節目に接近し、政府・日銀の介入警戒が一段と高まっているのだ。株高に沸く投資家が見落としがちなこの円安の圧力は、家計にも企業にも重くのしかかる。介入で一時的に押し戻せても、円安の根っこはそう簡単には抜けない。

160円がふたたび視界に入った

8月に入り、ドル円は159円台に乗せる場面が出てきた。7月末に日米が実施した協調円買い介入で163円台から急落したが、その後は上昇分の一部を取り戻す動きが続いている。介入で叩き落とした水準に、じわじわと戻ってきているわけだ。市場では、160円が極めて強固な防衛ラインとして意識されており、この水準に近づくほど介入への警戒からドルの上値は重くなりやすい状況だ。裏を返せば、160円という一本の線があるからこそ相場が持ちこたえているとも言える。つまり相場は、円安の力と介入の重しがせめぎ合う膠着状態に入っている。どちらかが崩れれば、一方向へ大きく振れかねない緊張感がある。

7月末の協調介入という異例

今回の局面を特徴づけるのは、日米が足並みをそろえた協調介入だ。7月30日の日本による円買い介入を受けて163円台付近から急落し、翌31日には米財務省も円買いに動いたとされる。かつて円安局面で米国が容認姿勢を取ることが多かったことを思えば、これは異例だ。日米協調介入で相場の空気が一変したと指摘されています。(外為どっとコム) それでも円は再び売られ始めている。

介入は「時間稼ぎ」にすぎない

ここで冷静に見るべきは、介入が相場の方向そのものを変える力は持たないという事実だ。介入はあくまで、行きすぎたスピードをならすための時間稼ぎにすぎない。円安の背景には、原油高を受けた米国の利上げ観測の再燃や、日米の金利差といった構造的な要因がある。金利の高いドルを持っていたほうが得だという力学がある限り、資金はドルへ向かいやすい。介入で一時的に円を買い戻しても、この根っこが変わらなければ再び円安に振れる。実際、7月末の協調介入から2週間ほどで相場はじりじりと水準を戻した。専門家からも、円介入警戒の「解除宣言」は時期尚早で、対ドル160円に向けじり安が続くとの見方が出ています。(Bloomberg)

家計と企業を静かに削る円安

株価の上昇は資産を持つ層を潤すが、円安は輸入物価を通じて生活のあらゆる場面にじわじわ効いてくる。ガソリンや電気代、輸入食材の価格に跳ね返り、給料が増えないまま実質的な購買力だけが削られていく。株を持たない多くの家計にとっては、恩恵より負担のほうが先に来る。企業の側も一枚岩ではない。輸出企業が為替差益で潤う一方、原材料を輸入に頼る中小や、燃料コストがかさむ運輸・飲食には重い逆風となる。円安が「良いか悪いか」を一言で語れないのはこのためだ。日経平均の桁が増えることと、暮らしが楽になることは、必ずしも同じ方向を向いていない。むしろ株高の陰で、生活実感は冷え込んでいる。

見るべきは指数でなく金利差

結局のところ、円安の行方を決めるのは介入の一発ではなく、日米の金利差がどう縮むかだ。日銀が利上げに動くのか、米国のインフレが落ち着くのか。その一点に、160円の壁が守られるかどうかがかかっている。投資家も生活者も、日経平均の最高値更新に目を奪われるより、日銀と円相場の次の一手を注視すべきだ。株高の陰で進む円安こそ、この夏の本当の主役である。

参照ソース(噂の出どころ)

円介入警戒「解除宣言」は時期尚早-重要な対ドル160円に向けじり安(Bloomberg, 26/08/12)
ドル円レートは再び1ドル160円に接近:日米協調介入の賞味期限は?(野村総合研究所 木内登英, 26/08/12)

コメントを残す

Trending