主役は天下人ではなく、その「弟」だった
2026年のNHK大河ドラマ第65作『豊臣兄弟!』が、夏に入っても手堅い数字を保っている。夏ドラマの視聴データでも上位に顔を出し、続編もので固められた今期の中で存在感を示している。この作品が新鮮に映る最大の理由は、主人公の設定にある。天下を取った豊臣秀吉ではなく、その弟・豊臣秀長を主役に据えたのだ。演じるのは仲野太賀、秀吉役には池松壮亮。派手な英雄譚ではなく、天下人を支えた「ナンバー2」の視点から戦国を描き直した点に、この大河の賭けがある。
「99人の側に立つ男」という視点の発明
秀長は歴史の表舞台では地味な存在だ。だが、その地味さこそが物語の武器になっている。仲野太賀は役について、秀長は秀吉のような100人に1人のカリスマではなく、残る99人の側に立ち、兄には見えない景色を見ていた人物だと語っている。( 美術展ナビ/25/12/07)
カリスマの物語は数あれど、そのカリスマを現場で支え、暴走を諫め、人と人の間に立って調整し続けた人物の物語は珍しい。この「調整役」への光の当て方が、組織で働く多くの視聴者の共感を呼んでいる。英雄になれなくても、組織を回しているのは自分たちだという実感が、秀長という主人公に投影されているのだ。
「悪役の秀吉」に戻さなかった原点回帰
制作統括の松川博敬は、当初は秀吉を主人公にと考えたが、あまり知られていない秀長を主役にすればより自由に描けると判断したと明かしている。近年は秀吉を悪役として描く作品が多かったが、あえて原点に戻った物語を届けたいという狙いもあったという。(サライ.jp/26/02)
晩年の秀吉の負の側面を強調するのではなく、兄弟が力を合わせて成り上がっていく上昇の物語として構築した。この明るさが、暗く重い題材が敬遠されがちな時代に、大河をむしろ観やすいエンターテインメントへと押し戻している。
「支える側」の物語が令和に刺さる
続編と有名IPが並ぶ2026年のドラマ市場で、無名の弟を主役にした大河が安定して支持を集めている事実は示唆的だ。視聴者が求めているのは、必ずしも突出した天才の物語ではない。むしろ、目立たなくても誰かを支え、組織を成り立たせている人間へのまなざしである。『豊臣兄弟!』の健闘は、主役の選び方ひとつで手垢のついた戦国が全く新しく見えることを証明した。ナンバー2に光を当てる——その一点が、この大河を今年最も新鮮な歴史劇にしている。
参照ソース(情報の出どころ)
大河ドラマ 豊臣兄弟! 主演の仲野太賀さんに聞く(美術展ナビ、25/12/07)




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