7月に入り、為替の空気が微妙に変わった。6月末に1ドル162円台という約39年半ぶりの円安を記録し、「もう歯止めはない」とまで言われていた円が、ここへ来て逆に上値を試す展開になりつつある。円安地獄がひとまず休止したかに見えるこの局面は、朗報のようでいて、実は次の難所の入り口でもある。

「もっと安くなる」から「そろそろ戻す」へ

変化の兆しは、市場の見立てそのものにある。7月上旬の相場見通しでは、円相場は米国の利上げ観測後退を受けて上値を試しそうだが、政府・日銀による円買い介入への警戒も続き、荒い値動きが予想されると伝えられている。(日本経済新聞/26/07/05) 数週間前まで「介入しても止まらない」と言われていた円が、今度は「介入があるかもしれないから買っておこう」という思惑で下支えされる。市場の物語が正反対に反転したことが、この一週間の最大の変化だ。

背景にあるのは、米国の金融政策の潮目だ。追加利上げの可能性が薄れ、むしろ利下げが視野に入ってきたことで、日米金利差の拡大というこれまでの円安エンジンが失速し始めている。162円という水準は、円の弱さの到達点であると同時に、逆回転が始まる折り返し地点になった可能性がある。

それでも「円高」とは呼べない理由

ただし、これを「円高転換」と呼ぶのは早い。日銀は6月に政策金利を1.0%へ引き上げたとはいえ、米国との金利差はなお大きく、円を積極的に買う理由はまだ弱い。上値を試すといっても、せいぜい過度な円安の巻き戻しであって、150円を大きく割り込むような本格反転とは性格が違う。今の円高圧力は、日本が強いから生まれているのではなく、アメリカの利下げ観測という他人の事情に乗っているだけだからだ。

この構造は株式市場にも影を落とす。円安を追い風にしてきた輸出関連や半導体株にとって、円の反発は逆風になりうる。7月の相場では、財政拡張的な政策や日銀の利上げの遅れへの警戒から国内金利の押し上げ圧力が強く、日経平均への寄与度が大きいハイテク株の重荷になりそうだとも指摘されている。(野村證券/26/06/07) 円が戻れば戻ったで、株の主役が揺れる。為替と株は、いつものように逆向きに引っ張り合っている。

家計にとっての「戻り」は薄味だ

生活者の目線で見れば、数円の円高では実感は乏しい。162円が158円になったところで、輸入食品やガソリン、電気代の高さが劇的に和らぐわけではない。円の価値は戦後の固定相場と実質同水準まで落ち込んだと言われる領域にあり、そこから数円戻った程度では、目減りした購買力はほとんど回復しない。「円安が一服した」というニュースは、痛みが増えるのが止まっただけで、痛み自体が消えたわけではない。

反発を「安心」と読み違えてはいけない

今回の円の上値試しは、日本経済が底力を取り戻した結果ではなく、アメリカの金融政策が緩む見込みに寄りかかった、いわば受け身の円高だ。だからこそ、円が戻ったからと油断して外貨資産を一気に円に戻すのも、円安が終わったと決めつけて円資産に安住するのも、どちらも危うい。162円という数字が示したのは、円が一方通行で弱り続ける相場は終わったが、円が強い相場が来たわけでもない、という宙ぶらりんの現実である。夏の為替は、方向感のない荒い値動きの中で、資産を一つの通貨に偏らせないことの重要さを静かに突きつけている。守るべきは円か外貨かという二択ではなく、どちらにも賭けきらない分散の設計だ。

参照ソース(噂の出どころ)

日経平均伸び悩みか、円は上値試す 今週の市場・予定(日本経済新聞/26/07/05)

日経平均株価の見通しを上方修正 上振れシナリオでは2026年末に7万円台突破へ(野村證券 ウェルスタイル/26/06/07)

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