ドル円は7月に入っても162円台に張り付いたままだ。約40年ぶりの円安水準に、市場は繰り返し「介入警戒」を口にする。だが視点を変えれば、この円安の主犯は日銀でも投機筋でもない。毎月コツコツと海外へ資金を送り出す、数百万人の個人投資家である。

162円は「事件」ではなく「日常」になった

ドル円は7月1日の昼過ぎに一時1ドル=162円84銭をつけ、約39年半ぶりのドル高・円安水準に達した。(日本経済新聞 26/06/30)。ニューヨーク市場でも162円台半ばで推移し、介入警戒が続いていると伝えられている。(ニューズウィーク日本版 26/07)

かつて160円は「防衛ライン」だった。だが今や162円は驚きを持って語られない。この「慣れ」こそが、円安が一時的な投機ではなく構造的な現象へ変質したことの証だ。相場が水準を切り上げても誰も慌てないのは、背後で日々淡々と円が売られ続けているからである。

日米金利差だけでは説明できない

教科書的な説明は日米金利差だ。米国では利上げ観測が根強く、日本政府は日銀の利上げをけん制する姿勢を示しており、金利差拡大の思惑がドル買い・円売りの一因になっているとされる。(三井住友DSアセットマネジメント 26/07/02)

だが金利差だけなら、日銀が動けば円安は止まるはずだ。現実はそう単純ではない。金利差は「きっかけ」を作るが、相場を一方向へ押し流し続ける「燃料」は別にある。その燃料が、制度として組み込まれた家計の外貨買いだ。

新NISAという「静かな円売り」

見落とされがちな要因として、新NISA(少額投資非課税制度)などで個人投資家が海外株への投資を続けていることが、円相場を押し下げる一因になっていると指摘されている。(外為どっとコム 26/06/30)。加えて、エネルギーを輸入に頼る日本にとって原油高も円売りにつながる構図だ。

ここに円安の本質がある。投機筋の売りはいずれ買い戻される。しかし新NISAを通じた海外投信の積み立ては、円を売って外貨資産を買い、二度と円に戻さない一方通行の資金だ。個人の合理的な資産形成が、結果として毎月一定額の「円売り予約」を発注し続けている。日銀が利上げしても、この地下水脈は止まらない。

介入という劇薬が効きにくい理由

政府・日銀は過去、160円台や161円台で円買い介入に動いた。片山さつき財務相も「必要に応じていつでも適切に対応する」と述べ、断固たる措置を辞さない姿勢を示している。(時事ドットコム 26/06/30)

だが介入は投機的な急変動を均すには効いても、構造的な資金流出には無力だ。数兆円を投じて一時的に円を押し上げても、翌月には新NISAマネーが淡々と外貨を買い戻していく。相手が国民の資産形成である以上、政府は正面から止められない。介入がカンフル剤にしかならないのは、病気の原因が投機ではなく制度だからだ。

円安の常態化を前提に動くべきだ

円安を「いつか戻る異常事態」と捉える発想は、もう捨てたほうがいい。金利差が縮んでも、家計の外貨シフトという構造要因が残る限り、円は簡単には強くならない。162円は上限ではなく、新しい常識の入り口と見るべきだ。守るべきは「円の価値」への幻想ではなく、円安が続く前提での資産の置き場所である。皮肉にも、その最適解の一つが、円安を押し進めている当の新NISAでの外貨資産の積み立てなのだ。

参照ソース(引用の出どころ)

ドル円は162円台に~ドル高・円安はどこまで進むか(三井住友DSアセットマネジメント 26/07/02)
円相場、一時162円台に下落 39年半ぶり水準(日本経済新聞 26/06/30)
6/30 ドル円162円突破!円安の要因は?(外為どっとコム 26/06/30)
円安進行、一時162円台半ば 39年半ぶり水準(時事ドットコム 26/06/30)
NY外為市場=ドル/円162円台半ば 約40年ぶり円安水準 介入警戒続く(ニューズウィーク日本版 26/07)

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