「今年こそ来る」を繰り返してきた10年
Apple Watchが2015年に登場した時、すでに血糖値モニタリング機能が検討されていたという話は有名だ。初代Apple Watchは「血糖値計測を搭載する予定だったが、技術的な問題から断念した」という内部証言は複数のメディアが報じている。それから10年以上が経過した2026年2月時点でも、Apple Watch Series 11(2025年9月発売)に血糖値センサーは搭載されていない。
Bloombergのジャーナリスト Mark Gurmanは2025年3月の時点で、「15年間の開発を経ても、非侵襲性血糖値モニタリング機能はまだ数年先になる。いつ実現するか明確な見通しはない」と断言している(MacRumors / Mark Gurman、26/02/26付近)。毎年「今年こそ」と期待させておきながら、実現しない状況が続いている。なぜこれほど時間がかかるのか。
「針を刺さずに血糖値を測る」ことの難しさ
血糖値を測るには、現在の医療技術では血液を採取するか、皮膚に細いセンサーを埋め込む持続血糖測定器(CGM)が必要だ。DexcomのG7やFreeStyle Libre 3といったCGMデバイスはApple Watchと連携して血糖値をリアルタイム表示できるが、これはApple Watch自体が計測しているのではなく、外部センサーのデータを中継表示しているに過ぎない。
Appleが目指すのは、外部センサーなしに手首に当てるだけで血糖値を計測する「非侵襲性グルコースモニタリング」だ。最有力の技術アプローチは光学式吸収分光法(Optical Absorption Spectroscopy)で、特定波長の近赤外光を皮膚に照射し、細胞間質液に含まれるグルコース濃度を推定する。
2023年、Bloombergはこの技術でAppleがiPhoneサイズの動作可能なプロトタイプを作成したという大きなマイルストーンを報告した。しかし問題はそれがまだ「Watch」に収まるサイズではないことだ。現在はこのセンサーをチップレベルまで小型化する研究が進められているという(9to5Mac、26/01/08)。
FDAという巨大な「もう一つの壁」
技術的な問題をクリアしたとして、もう一つの関門がFDA(米食品医薬品局)による審査だ。血糖値計測は糖尿病患者にとって命に関わる情報であり、不正確な数値が表示されれば過剰投薬や低血糖発作の原因になる。FDAはいまだ非侵襲性での血糖計測を行うウェアラブルデバイスをどんな機種も承認していない。
Appleが取り得るルートの一つは、精確な数値ではなく「血糖値が上昇中/下降中」といったトレンド表示のみを行い、「医療機器ではなくウェルネス機能」として市場に投入することだ。これはFDA承認が不要な場合もある。専門家の予測では、まずこのトレンド表示が「Apple Watch 2028〜2030年モデル」に実装され、その後数年をかけて正確な数値計測へと進化していく可能性が最も高いとされている(OnOff.gr、26/02/06)。
競合他社との比較――Samsungはなぜ急いでいるのか
Galaxy Watch 9(2026年夏登場予定)では非侵襲性の血糖値モニタリングが実装されると複数のリーカーが主張している。SamsungはGalaxy Watch 7とWatch Ultra(2024年)でまず血圧計測を実装し、今回の血糖値センサーへの拡張を「次のステップ」と位置付けている。ただし精度の問題はSamsungも例外ではなく、市場投入後に医療機器として真に機能するかどうかは不透明な部分も残る。
Appleのアプローチはより慎重だ。Apple Watch Series 11の高血圧通知(Hypertension Notifications)は、10万人超の被験者データと2,000人以上の臨床試験を経てから実装された。この「科学的検証ファースト」の姿勢は信頼性の高さを担保する一方で、開発時間を大幅に引き延ばす。Apple Watch Series 11が搭載した新機能の一つである血圧トレンド検知(ヒポテンション通知)も、「測定値」ではなく「兆候の検知」に留めることでFDA審査を通過させた経緯がある。血糖値も同じアプローチを取るとすれば、「本格的な計測機能」は2030年以降にずれ込む可能性が現実的だ。
2026年のApple Watch Series 12で来ることは?
Counterpoint Researchの直近データによれば、Series 11で追加された高血圧通知や睡眠スコアが実際の買い替え動機になっており、Appleのグローバルスマートウォッチシェアは23%と前年比1ポイント増。「デザインを変えなくても、センサーを増やせば売れる」という戦略が機能している(Gadget Hacks / Apple、26/03/28付近)。
2026年秋のSeries 12では外観の大きな変更は見込まれず、血糖値センサーの実装も現時点では確認されていない。ただしTouch IDの統合(ディスプレイ内蔵か側面ボタン統合か)や5G(RedCap)対応モデルのラインアップ拡充、さらにwatchOS 26の新AI機能「Workout Buddy」の強化は予定されている。
血糖値計測の実現は、スマートウォッチ業界全体が目指す「聖杯」だ。どのメーカーがこれを最初に市場に送り出せるか――そこには技術力だけでなく、精度担保と規制クリアという二重の高い壁がある。Appleが「最初」になるかどうかは分からないが、「最も正確に、最も安全に」実装しようとしているメーカーであることは間違いない。
参照ソース(噂の出どころ)
Apple Watch Series 11: Should You Buy? — MacRumors
Apple Watch blood sugar monitoring a step closer as new tech launches — 9to5Mac
Blood Sugar on Apple Watch: How Close Are We in 2026 — OnOff.gr
Apple Watch Redesign 2026: Why Health Features Drive Upgrades — Gadget Hacks




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