近年、スクウェア・エニックス(以下スクエニ)がAAA級の“完全新作RPG”を出すことについて、ファンや投資家の間で困難さが語られることが増えています。本記事ではグローバルな視点で、なぜそのような状況になっているのかを整理します。

株主・投資家が指摘する「経営課題」とRPG開発の重み

2025年12月初旬、シンガポールの投資ファンド 3D Investment Partners が、スクエニHDに対して「経営課題を提示する100ページ超のプレゼン資料」を公開し、株主への意見募集を呼びかけました。この資料では近年の売上成長率・利益率が業界内で低迷していること、特にHDゲーム事業(AAA級タイトルが中心)の売上・利益が伸び悩んでいることが指摘されています。(3D Investment Partners プレゼン資料)

投資ファンドは、「売上高成長率の低迷と利益率の低迷が開発リソースの重圧につながり、新規RPGプロジェクトをリスクと見なす傾向を強めている」と分析しています。また、HDゲーム事業での利益率が競合平均より低いことも問題視され、効率的に利益を生み出せない体質が指摘されています。(3D Investment Partners プレゼン資料)

大型RPGの開発費と市場の変化

スクエニが過去に手掛けた大型作品は、いずれも膨大な開発費を要してきました。このため、売上が見込みに届かない場合、投資対効果(ROI)の問題が露呈します。投資家の資料などをもとにした分析では、『ファイナルファンタジー16』の開発費が推定約91億円である一方、販売本数は 300 万本台に留まっているとされ、AAA 開発の収益効率に疑問符がつく状況が描かれています。(note 記事)

こうした数字的な重さは、スクエニが伝統的な“完全新作RPG”に大きなリスクを賭けられない土壌を作ってしまっています。新規IP を立ち上げるには開発費・人材・販売マーケティングの多大なコストが必要ですが、その回収が不透明であるため、経営判断で慎重にならざるを得ません。

リメイク重視戦略とリソースの分散

スクエニは近年、新規完全新作 RPG を送り出すよりも、既存の人気 IP を使った「リメイク」や「再構築」にリソースを割く戦略が目立っています。たとえば『ドラゴンクエスト VII リイマジンド』や『オクトパストラベラー0』のようなプロジェクトは積極的に展開されていますが、それらは新作 RPG とは性質が異なります。(スクエニ公式サイト)

また、『ドラゴンクエスト IV』フルリメイクがしばらく出ていない背景にも、「HD-2D」技術を使ったリメイクの高コスト問題と、リソースの優先順位が影響していると分析する声があります。これは、RPG の完全新作よりも開発期間が長く、かつ制作負担が大きい可能性があるためです。(Pocket Log 記事(25/09/23))

ファン市場とグローバルな期待感のズレ

グローバル市場では RPG ジャンル自体への期待は依然として高いものの、消費者の好みやトレンドは変化しています。たとえば独立系スタジオの RPG 『Clair Obscur: Expedition 33』 が世界的な評価を受ける一方で、従来の日本発 RPG の新作に対して「発売までの時間が長い」「期待に応えられない」という声も散見されています。(GameSpot 記事(25/12/11))

このズレは単純な評価の問題だけではなく、開発側が“確実に売れるかどうか”を重視する株主・投資家の視点と、ファンが求めるオリジナリティのバランス調整の難しさとも関係しています。

まとめ:完全新作RPGの実現は“リスクと投資効率”の問題

結局、スクエニが完全新作 RPG の投入に慎重になる本当の理由は、単なる売上や企画の問題ではありません。巨大な開発コストと、投資家からの収益性への圧力、既存 IP の再構築を優先するリソース配分など、複数の要素が絡み合っています。現状では「確実性のあるタイトル」「既存 IP のリメイク・再展開」が優先されやすく、新規タイトル構想が社内で十分な支持を得られない可能性があるのです。

参照ソース(噂の出どころ)

3D Investment Partners プレゼン資料:3D Investment Partners
スクエニ公式情報:SQUARE ENIX Official
ドラゴンクエスト IV リメイクの裏事情:Pocket Log(25/09/23)
‘Clair Obscur’ が評価される背景:GameSpot(25/12/11)
開発費と売上の分析:note(推定分析)

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